かぐわしきは 君の…
  〜香りと温みと、低められた声と。


    2



絹あげとハクサイの含め煮に、厚切り米ナスの味噌田楽。

 “頂きもののハムの調理は、悪いけど自分でしてもらうとして。”

それへは さっと茹でて甘みを出したキャベツを添えて。
あとは タケノコと油揚げの炊き込みご飯に、
ジャガ芋とタマネギのみそ汁。
箸やすめは キュウリの浅漬け…というのが、
本日の夕ご飯のラインナップ。
そちらは肉が主食の地域生まれであるにもかかわらず、
菜食主義者で、
肉や魚は調理さえ禁忌としているブッダに付き合うように。
今日は一部に例外が割り込んでいるものの、
基本は野菜のオンパレード。
そこへ何とか妥協しての 時々玉子という、
極めてストイックな食生活を、苦もなく受け入れているイエスであり。

 『だって、ブッダの作るもの、何だって美味しいしvv』
 『そそそ、そうなんだ。///////』

高野豆腐でそぼろを作ってくれたり、
おからと片栗粉でハンバーグ風お焼きを作ってくれたり。
そりゃあいっぱい工夫もしてくれるのに、
なんで不満なんてあろうかと。
本人を前に、屈託なく笑って言い抜けるから恐れ入る。
無論、時には 脂の乗ったチキンだのビーフだのも食べたいと、
身を乗り出しつつ言い張ることもないではないけど。
わたしには調理出来ないし、何より予算内に収まらないよと、
理路整然、無理なものは無理だとブッダが言い渡せば、
じゃあしょうがないかと あっさり引く彼でもあって。
かつて、数多(あまた)の人々導いて来た身、
開祖という年長な人物としての聞き分けの良さというよりも、

 “無邪気な素直さとしか思えないのは何故だろね。”

というわけで、
本日の献立は既にしっかと決まっており、
材料のほうも、数日ほど前の売り出しでほぼ揃っていたし、
絹あげも今朝ほど、
日課のジョギング途中に豆腐屋さんから直に買ったから。
準備も万端…と来たものの、

 “……。”

いくら間に合うことであれ、
時間に追われつつという作業は何につけあまり好きではなくて。
手が空いているのなら、
下ごしらえだけでも済ませておきたいとする気性のブッダだが。
いかんせん、人が来るのを待つ身とあって、
相手任せの待機という事態の中、手持ち無沙汰なまま時間を持て余しておいで。

 “まったくもう。”

天世界の情報誌『R2000』の 夏号への原稿を、
今朝方までかかって何とか仕上げたものの、
編集担当の梵天氏が、
他を回る都合がずれたとかで、やや遅れて来るという。

 『こっちが焦りまくりで掛かっている時ほど とっとと来ての、
  いくらでも待ちますと言いつつ、
  無言で注視してプレッシャーの塊となってくれる人だのにね。』

いつだって待たせるのは忍びないことだから、
今日はそんな無駄足はさせないと思えばこれだもの。
どれほどに相性の悪い間柄なのやら、
咬み合わないにも程があるよねと、
目元をやや眇めての半目になって、
いかにも営業用の定形句による遅延のお知らせメールを見、
携帯を片手でぱたくりと閉じたブッダだったのへ、

 『まあまあ。』

イエスの側が苦笑混じりに宥めるというのも、
思えば珍しいケースだったのかも。
そのイエスも出掛けていて姿がないものだから、
余計に手持ち無沙汰にも拍車が掛かる。

 『あ、しまった。
  DVD、今日中に返しに行かなきゃいけなかった。』

連泊サービス期間だったのと、
ブッダが原稿に掛かりきりだった間の気散じも兼ねてのこと、
数枚ほどまとめて借りたというのを抱えて出掛けており。

 “また新しいのを、借りて来なきゃあいいのだけれど。”

だって、やっとこちらの身が空いたのに、
DVDなぞに掛かりきりになられちゃあ詰まらない。
ここ数日、彼を放っておいたのはこっちなのだから、
そんな虫のいい言いようなんて無いと判ってはいるけれど。
邪魔をせぬようにとの大人しく、
テレビのほうばかり向いてた横顔が、何とも遠く見えていたのだもの。

 “またぞろ あんな顔ばかり拝むのはもう御免だ。”

卓袱台の上、きちんと封を折り返されたクラフト紙の大封筒を眺めやり。
もう何度目となるのやらという溜息をついておれば、
足音など、何の前触れもなくの突然、ドンドンドンと、
恐らくは拳での連打だろう、
ドアの強度も何のその、力強い叩きようから来訪者もすぐに知れたのだった。




     ◇◇◇


まだ梅雨は明けてはないらしく、
見上げた空には雲も多くて陽差しも弱め。
とはいえ、時折吹く風は、あんまり涼しいとは言いがたく。
生暖かいって訳じゃないけど、
湿気のせいか、頬を撫でても髪へまでは入ってゆかず、
もったりと止まってしまうので。
ああ、いっそ降った方がさっぱりするかもしれないなと、
人通りのない小道をとぽとぽと進む。
借りていたDVDを返しにいっただけの外出で、
出掛けた理由と同じほど、急ぐ言われもない帰途であり。

 “でも、ブッダは ちゃんとねぎらってあげなきゃね。”

それは面白い漫画を描く才能に照準を合わせられてのこと
それはそれは強腰なプロデューサーさんからの押しに負け、
天世界で発行されている情報誌へ、作品を掲載する身となっており。
いつもの原稿なら、
黒い部分を塗り潰す作業だけ手伝うことも出来たのだけれど、

 “色つきの原稿じゃあね。”

特別な特集号ででもあったか、
オールカラーという仕様だったので、
素人のイエスでは何とも手の出しようがなく。
家事が危ういイエスのために、三度三度の食事の用意もこなしつつ、
依頼があったのがほんの半月前という
よく判らない苦行もサービスされた代物、
8ページものカラー四コマを、頑張って一人で仕上げた彼なのを、
すぐ傍らで見守っていたイエスとしては。
手伝えなかった歯痒さも足してのこと、
いっぱいいっぱい ねぎらってあげなきゃあとの決意は堅くて熱く、
手ぶらで空いてたその手をぐっと、
決意の現れとばかりに握り込んだはよかったが、

 「………あれ?」

帰り着いたるアパートから、何とはなく剣呑な気配がするような。
平日の昼日中とあって他の住人の皆さんは出払っているようであり、
となると、この殺伐とした空気が発しているのは
間違いなく…2階の端の自分たちの部屋だということか?

 “梵天さん、来てるのかなぁ。”

天部の幹部格で、ご本人も意欲あふるる働き者。
数々の企画や何やを創設しちゃあ、
おはようからおやすみまでを見守る勢いで世話を焼いての
必ず完成・完結させるという、名うてのプロデューサーだそうだけれど。
言っちゃあ悪いが、どうにもブッダとの相性はお世辞にもいいとは思えぬ人で。

 “あのブッダが、気がつけば喧嘩腰になっているのだもの。”

慈愛の心もつ彼だとて、何でも許すというわけじゃない。
曲がったことは嫌いだし、ついでに我を曲げるのも苦手なようで。
そこへ持って来て、梵天氏がまた押し出しの強い個性派なものだから、
納得のいく返事が出るまでは帰りませんと来て、
微妙な膠着状態になることもしばしばだったりし。

 “まさか、またそういう睨み合いに?”

うあ、だとしたら自分が割って入ってもどこまで効くものかと、
それでも急ぎ足となって階段を駆け上がる。
上の廊下へ達すると、
大きめの声はすぐにも洩れ出てしまう例に漏れず、
それははきはきした天部の豪傑の声へかぶさって、
ブッダの非難の声も聞こえて来ており、

 そも、毎号掲載という契約をした覚えはなし、
 ギリギリ譲って、季刊号にのみ特別に寄稿するとしたのであって。
 だというのに
 当然顔で“次の締め切りとテーマは”と持ち出すとは
 一体どういう料簡か、と

詰め寄るようにしている姿が
たやすく想起出来よう語勢で言いつのっていたけれど。

 「そうですか。
  私としては、早めに言っておけば、
  あなたのことだから
  計画を立てての周到にかかれるのではないかと思ったのですが。」

 「とか何とか言っても、
  何やら閃けばあっさりと予定なんて変わってしまうくせに。」

 「おお、よくぞ私の本質を把握していますね、シッダールタ先生。」

悪びれもせずに、きっとあの分厚い胸を張っての応酬なんだろなと、
これもまた容易に想像がつく身になっているイエスとしては、

 “入ってっていいのかな。”

何せ六畳一間のフラットだから、
どこにいようと彼らのやり取りと同座せねばならないわけで。
微妙に第三者な自分としては、身の置きどころに困るよなぁと、
ドアの前にて立ちん坊になっておれば、

 「さあ、今日の用はお済みでしょう? 帰って下さいな。」

温厚泰然が常のブッダがそこまで言って追い返すのだから、
どれほどのこと、当然顔でしゃあしゃあと困らせたかも判ろうもの。
しかも、

 「イエスを待たせているのですよ、さあ帰って下さい。」

 “…え?”

お怒りの声は玄関へと近づきつつ放たれたもの。
しかも、その語尾が消えぬうちにも
スチール製のドアが外へと勢いよく開いて、
まさかに手づから突き飛ばしまではしなかったろが、
それと同じほどの覇気を突きつけたらしく。
山のような大男というのではないが、
がっしりしていて体格のいい、
イエスとブッダとまとめて頭上まで容易く抱え上げられそうな猛者を、
語勢だけで おととと押し出してしまった迫力の物凄さよ。
しかも…そんな彼が退いた隙をついての、
きっちりと見透かしていたかのような鮮やかさでもって。
ドア前に立っていたイエスの手を取ると、
有無をも言わさず、ぐいと引っ張り込んでの そのままドアを閉じるまで、
数秒ほどしか掛かってはいなかろ見事さで。

 「やるな、シッダールタ先生。」

さすがにそうまでされては諦めるというものか。
勝者への賛美の一言を紡いだのち、
ほころんだ口元では、
きらりんと歯が光っていたやも知れぬ朗らかさなのに、

 “…どうしてだろか。”

清々しいとは思えないのはイエスだけではないはずで。(こらこら)
参った参った、はっはっはっと、
あくまでも爽やかに(?)立ち去った天部幹部の気配が、
本当に遠のくまでをじっと数えてのそれからやっと、

 「…まったくもう。」

全身がそのまま頽れ落ちるのではないかと危惧したほど、
大きく肩から力を抜いての、はぁあと息をついて見せるブッダであり。

 「相変わらず、強引な人だねぇ。」

くどいようだが、仮にも天部だけに、
人を貶めたり、困らせての嘲笑したりと、
そういった悪意から動くよな悪い人ではないと思う。
ただ、あまりに精力的なものだから、
ついつい我が道しか見えない強引な言動が過ぎ、
相手の気持ちや立場というもの、一切考慮に入れない困ったお人。
人の話も聞かないとあって、
弱腰な相手なら押され負けてのひれ伏すだろうが、
そうはいかない場合は辟易を誘うだろうし、
癇に障ったという怒りを呼んでの衝突もさぞかし多かろう。

 「…まったく。自分が正しいと疑わないのだもの。」

ホント困った人だよねと、頭を振り振り 三和土(たたき)から上がると、
真っ直ぐ六畳間までを進んで、腰高窓へと腰掛けかかったものの。
そこから見下ろせる道に、
ガチョウに乗った誰かさんの後ろ姿がまだ見えていたものか。
壁へと背中を凭れさせ、
そのまま ずずずっと座り込んでしまった彼だったりし。

 “これは相当まいってるな。”

だって
少なくとも2日は 徹夜に近い睡眠時間しかなかった彼だと
イエスは知っている。
夜更かしが常の彼の方が先に沈没しかかっては、
ちゃんと布団を敷きなさいと、
尻を叩かれた2日間だったのだから間違いない。
そこへ持って来ての あの口喧嘩だもの、
どれほどの無神経な言いようから煽られたものかは知らないが、
向こうは元気溌剌だったのへ、疲れた身へ鞭打って立ち向かったのだから、
そりゃあ参ってもしょうがないと。
見て取った上で、でも、

 「ブッダ。」

後から遅れて部屋までを進み、
壁へ凭れたまま座り込んでしまった相棒の前へとしゃがみ込んだイエスには、
腫れ物に触るという気配なぞなくて。
目元を細めてにひゃっと笑うと、

 「大変だったね、疲れたでしょ。」

屈託のない声がさらりと紡いだ言いようの、
簡潔にして判りやすい、だからこその心地の善さよ。

 「………うん。」

微妙に間が空いたのは、
まだくすぶっていた暗雲を晴らすために要ったのであり。
行儀悪くも立て膝になっての背中を丸めてという、
珍しいほど だらしない恰好のブッダなのにもかかわらず。
眉をひそめて同情しつつ案じるのでなく、
気丈夫な兄を慕うような、
それでいて伺うような気配はまるでない、
あっけらかんとした雰囲気のまんまなのがまた、
見ているだけで癒されるから不思議なもの。
ちょっとは気が張ったか、かかとに力を入れて身を立て直しておれば、
すぐ傍らへと寄って来て並ぶようにし、
彼も壁へとより掛かっての座り込むイエスであり。

 「少し休めば?」

そんなことを言い出す。

 「?」
 「うん。まだ陽は高いけどね。
  でも、私の方が先に寝てたでしょ?ここんとこ。」

だから、きっと寝不足だと思うと言ったそのまま、
何故だか自分の、ブッダと接している側の肩をポンポンと叩くので、

 「? …………ああ。」

いいの?と目顔で問えば、任せてと言いたげに笑うので、
じゃあと借りたのがその肩先で。
頭だけ乗せるというより、そおと凭れかかれば、

 “…あ。まただ。”

ほのかにふわりと、清かなバラの香が届く。
馥郁と濃厚なのがのべつまくなしというのじゃなくて、
近づいたことで感じられたが、すぐにも掻き消えたほどの微かなそれであり。
だからこそ、気になったのかもしれないなと思っておれば、

 「あ、痛くないかな。」

さほど肉付きがよくない身なの、
今頃思い出してるところも彼らしかったが。
全然と首を振り、助かるよと囁けば、
途端にうわぁと嬉しそうな喜色満面になってしまい、

 「ほら、寝て寝て。」

急かされるのもどうかと、口許が苦笑でたわんでしまいつつ。
でも…この温かさはどうだろうかと、
素直にまぶたを降ろせば、

 “あ…。”

着痩せして見えるだけなのか、案外としっかりした肩だと気がつく。
凭れるに足る頼もしさ、ちゃんと持ってる彼なんだなぁと、
こんな形で気づいたなんてね。
そこへと、

 「今日は雨にはならないって。
  だから、洗濯物も心配要らないからね。」

イエスが小声で囁いたのは、
そんないかにもな所帯臭いお知らせだったけれど。

 “あれあれ?////////”

なんて雰囲気のある声だろかと、不覚にも落ち着けなくなる。
身じろぎしたのが伝わったのか、
しばし彼の視線がありありとこちらへ向けられていたけれど、

 「…♪♪♪〜♪」

あ、この歌は知っている。
時々イエスが口ずさむ、西洋の子守歌ではなかったか。
ところどころでハミングになるのは、
実は歌詞を思い出せないからだと言っていて。
そんなことさえつや消しにはならぬ、それはいいお声で歌うのを
実は楽しみにしているブッダだったので。
ああこれは得をしたなと、静かに聞き入ることにする。
いつになく低められた声は、
低音部で随分と掠れるのが、なのに妙に頼もしく聞こえて。
目を閉じているからかな、
体がふわふわと浮かんでいるよな感覚になる。
隣家の生け垣を揺する風の音、
走り来て駈け去る自転車の車輪の音、子供らのはしゃぐ声。
そんなこんなも聞こえるのにね。
そっちはずんと遠い、テレビの中の効果音みたいに聞こえていて。
とっても優しい旋律の、
けれど、ところどこで歌詞が誤魔化されちゃう子守歌の方へ、
すっかりと意識が搦め捕られて…。






  ―――――っ。

  あれ? 今のって何の音?

ハッとして、でも、意識はまだぼんやりと たゆとうたまま。
何だか記憶が曖昧で。えっと此処って何処だっけ。
動きかかった途端に頭がずっと落ちかかり、

 「わっ。」

こっちが驚くより先に誰かがわあと驚いてのこと、
ずるりと落ち込みかけたのは頭なのに、
総身をという勢いで抱きすくめられている。

 「……え?」
 「ごめん。起こしたね、ブッダ。」

え? 何のこと?
あ、イエスじゃないか。
君もいるってことは、此処ってもしかして

 「………天国?」
 「いやまだ帰省はしてないし。」

告げながら くすすと微笑った彼だったのは、
後に聞いたら 寝ぼけてるブッダなんて珍しいものが見れたからだとか。
だって部屋が暗いじゃないか。
まだ起きるには早い時間なのかなと思いつつ、目元を擦りかかって…。

 「……………あ"。」
 「気がついたのかな?」

ぼんやりしまくりなブッダなのもそのはずで、

 「螺髪が解けてる?」

普段は神通力で堅い粒状に圧縮している髪。
でもでも気を抜いてほどけば、
たちまちあふれ出すのがつややかな濃い色の髪で。
先日結構な長さを切ったが、
それでもまだ足元へ着いての垂れるほどの長さが保たれていた大量の髪が、
今もまた、すっかりとほどけてしまっての、
厚絹の一枚布でもこうはいかない、
うるうると濡れたような艶と張りでもて、彼らの周囲を取り巻いており。

 「…おかしいな。」

普段の就寝ではこんな風にいちいちほどけはしないのに。
倒れ込んだ柱を咄嗟に受け止めただけと言わんばかり、
やや斜めに抱えられた格好になったまま、
あれれぇ?と覚えのない現象を不思議に思っていたものの、

 「…あ。ごめんごめん。」

床に、というか、
そこに敷き詰められた格好の自身の髪の上へと手をついて、
やや気怠げに よっこらせと身を起こしの、座り直したブッダだったのへ、

 「よほど気を張ってたんだろうね。」

そんな一言だけを言うイエスなのが、
ああまただと、胸の此処を温かくくすぐる。
執筆疲れは勿論だけれど、
梵天とのカリカリした応酬でもよほどに気が高ぶってしまったのだろう。
そこへとくるみ込むよに齎されたのが、
大人ぶっての はいと差し出された柔らかなねぎらい。
優しい匂いと大好きな温みつきの、存外頼もしかった枕と、
気に入りの子守歌だったから。

 “そりゃあ、気も緩むよなぁ。”

それこそ“シッダールタ”に程近い姿なままで、ぼんやりと見守る視野の中。
まるで盛夏の更夜のような、むらのない深藍のブッダの髪を、
行儀のいい手でそおと掬い上げ、
さらさらすべり落ちる感触へ、
おおおと随分感じ入ってる神の御子様なのへ。
思う存分触らせてやろうとばかり、うとうとまどろむ釈迦如来様で。
小半時ほどしてから、さてと髪を元どおりの螺髪にまとめて、

 「ご飯、作るね。」
 「うん。ごめんね、起こしちゃったよね。///////」

可愛らしい、でもそれもまた悲鳴の一種か きゅるるという音がして、
ああ、イエスのお腹が鳴ったんだと、
それへ呼ばれて目が覚めたようなもの。
ゆっくり休んでと言い出したのは自分だのに、
何とも面目ないとうつむき掛かった神の和子へ、

 「いいさ。だってあんまり腑抜けすぎ。」

マーラが来ていたら一巻の終わりだったかもと、
悪戯っぽく笑ったブッダだったのへ。

 「大丈夫、ウリエルを呼ぶから。」

……と。
もしかせずとも本気も本気で、言い切ったイエスだったそうでした。







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  *初書きなのに梵天さんの扱いがひどくてすいません。
   ああも人の話を聞かない人ってのも……。
   でもまあ、天世界の幹部じゃあなぁと、
   なので、寒い目に遭ってもしょうがないよねと、
   ついつい手心加えられなかったお初でございます。

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